ようこそ、junログ焚き火道の世界へ。

皆さま、ごきげんよう。ようこそ、焚き火道の世界へ。観雲一草流・家元の藤田でございます。

肌寒くなってくると欠かせないもの、それは焚き火ですね。肌寒くなくても焚き火は楽しいものですが、やはり真夏に汗をかきながら…というよりは、少し暖をとりながらの焚き火が楽しくもあり、ありがたくもある、そんなふうに思っております。でしょ?
昨今、焚き火一つ立てる(焚き火道では、焚き火の設営を「焚き火を立てる」と表現しますのでご承知くださいませ)にも、なかなか難しい時代となっております。まず、どこででも、というわけにはまいりません。火を扱うわけですから、防災上、安全の確保された場所が必要です。また、煙が発生することを考えると、近隣に対する配慮も欠かせません。さらには、焚き火終了後の消火が確実にできること、焚き火の後処理(燃え残った炭の処理や地面の燃え跡対応)など、数えあげればきりがない。「♪垣根の垣根の曲がり角、焚き火だ焚き火だ落ち葉焚き」なんて時代は、もはや過去の夢まぼろしになってしまいました。それこそ、垣根の曲がり角なんぞで落ち葉を集めて火をつけた日には、消防車が出動しかねません。それでもなお、人は焚き火をあきらめられない。どうにかして焚き火を立てたい、そんな欲求を抗い難く抱えた存在が人間というものなのでございましょう。そしてまた、焚き火とは、人間の根源的な部分に訴えかける魔力を持った行為なのだろうと思います。
ずいぶん話が大きくなってしまいました。ともあれ、ここでは、焚き火道入門として観雲一草流・家元のわたくしが、皆さまに焚き火を実践するにあたってのあれこれをご指南してまいることといたしましょう。

第1章 お手軽にいきましょう

なぜ焚き火をするのか、その理由はシチュエーションにより様々です。たとえば、忍び寄る獣に襲われないための焚き火。暗闇に光るいくつもの眼。ふと気づけば、まわりをオオカミに囲まれていて絶体絶命、なんていうシチュエーションが想定される場合には、命がけの焚き火になりますから、悠長なことは言っていられません。なるべく盛大な焚き火を心がけ、いざという時には火のついた薪を素早く手に取れるような焚き火である必要がありますね。これはもう、焚き火道の範囲を超え、サバイバル術の分野と言えます。また、食物の煮炊きを目的とした焚き火であれば、竈(かまど)の築き方あたりからご指南する必要があり、これまた焚き火道の範囲を超えていますので、ここでは取り扱いません。

焚き火道としての焚き火の目的は、純粋に「焚き火を立てること」以外にはございません。立てた焚き火を何かに利用しようというような邪な考えは捨て、ただただ焚きたいという気持ちに素直になって、ひたすら焚き火を立て、それを眺めて楽しむ、ここに焚き火道の本筋があるわけでございます。そういうわけですから、あまり大がかりになってしまっては、焚き火道の本質から外れていくことになる。なるべくコンパクトな焚き火を心がけることが重要となってきます。
焚き火道では、安全性や利便性を考慮して、バーベキューコンロを利用した焚き火をお勧めしています。バーベキューコンロなら我が家にもある、という方も多いと思いますし、なにしろコンパクトでお手軽。場所を選ばず、周囲の環境に及ぼす影響も最小限で済みます。そんなわけで、ここから先のお話は「バーベキューコンロ焚き火」を基本としてご指南してまいります。

どなたもご経験がおありかと思いますが、遠足の楽しみといえばおやつ。とりわけ遠足前日のおやつの準備には、独特のワクワク感があったはずです。決められた金額の中で何を買おう?、バナナはおやつに入るの?、などなど悩ましくも楽しかった思い出が蘇ってまいりますね。ことによると遠足そのものよりも、おやつを準備している遠足前日のワクワク感のほうが記憶に残っているという方も少なくないでしょう。焚き火も同様かもしれません。焚き火道では、焚き火の素材として自然木を推奨しています。ですから、まずは野山に分け入り焚き木を探す、ここが焚き火のスタートなのです。朽ちた枝木を拾い集めながら、どんな焚き火を立てようかと算段するときのワクワク感はまた格別です。

これは、焚き火道における何物にも代え難い楽しみの一つと言えましょう。申し上げておきますが、誰かが準備してくれた焚き木や薪での焚き火は(家元としてそれを禁止するわけではありませんが)楽しさ半減ですのでお勧めできません。遠足のおやつを思い出してください。何を買うか、自分で決めるところに得も言われぬ楽しさがあったのではありませんか? お母さんが買っておいてくれたおやつを渡されても(それはそれでありがたいには違いありませんが…)ワクワク感の半減は否めません。焚き火も然り。「自ら焚きたいものを集めて焚き火を立てる」、これこそが焚き火道の原点と心得てください。

第2章 準備もまた楽し

焚き木を求めて野山に分け入るには、相応の装備が必要です。重装備は不要ですが、少なくとも手足の露出は避け、手袋を着用しましょう。長靴などがあればなお良いと思います。焚き木拾いとはいえ、そこは自然が相手。油断していては思わぬ怪我を負う可能性もありましょう。焚き木を拾おうと手を伸ばした草むらには、毒を持ったマムシやヤマカガシが潜んでいるかもしれません。朽ち木を持ち上げた拍子に、ヒアリやセアカゴケグモが降りかかり、足元からはムカデが這い登る。蚊は群がる、ヒルは吸い付く、マダニは落ちてくる、そこにスズメバチが大挙襲来して…。脅かすわけではありません(完全に脅かしている?)が、自然の中では何が起こるかわかりませんので、十分に気をつけてください。

焚き木は可能な限りたくさん集めましょう。実際、焚き火を始めてみると、おそらくあなたが思っているよりも早く焚き木はなくなります。経験上、間違いありません。焚き火をゆったりと長い時間楽しみたければ、これでもかとばかりに大量の焚き木を準備してください。また、焚き火は焚き木がなくなった時点で、いさぎよく切り上げましょう。やはり夕刻から夜にかけての時間帯に行ってこそ、焚き火は盛り上がりますから、そうなるとおそらく焚き木がなくなるころには、もはや陽は落ち、周囲は闇に包まれているはずです。

そんな状況下で追加の焚き木を探しにフィールドへと出ていくことは極めて危険ですから避けてください。多くの生き物は夜間にこそ活発に活動しています。先に挙げた病害虫はもとよりイノシシやクマなどと鉢合わせしないとも限りませんし、地域によっては(日本除く)、サソリやタランチュラの毒に倒れたり、アナコンダに巻かれたり、ゾウに踏まれたり、トラやジャガーに背後から襲われる可能性もあるでしょう。注意一秒怪我一生、鳴らせ心の警笛を。焚き木の採集は、安全第一で陽の高いうちにどうぞ。
良い焚き木の条件として最も重要なことは、「乾燥」していることです。生木は煙が出るばかりで焚き火になりませんから避けてください。また、朽ち木であっても雨の後などで水分を含んでいるものは着火しにくくなります。すなわち、乾燥した良い焚き木を回収しようと思えば、焚き火を実施する日の前(最低、2日間くらい)の天気に目配りし、焚き木のコンディションに気を使う必要があります。なお、焚き木を事前に集めて雨に濡れない場所にストックしておき、いつでも焚き火ができる状態を整えておいて焚き火に備える、という安全策もありますが、焚き木採集と焚き火の実施にインターバルがあった場合、焚き火の盛り上がり度は格段に低下します。可能な限り、焚き木採集から焚き火の実施までは間を置かず、連続して行うようにしたいものです。
滞りなく焚き火を立てるには、細かいことを申し上げるようですが、4種類の太さの焚き木を集めていただきたいと思います。まずは、指の力でも簡単に折れる程度の細い焚き木(図1:極細枝)。

直径は5㎜程度のものになります(とくに太さを計測して集める必要はありませんよ、これはあくまでも目安ですから)。次に、それよりもやや太めの、両手でつかんで力を加えれば折れる程度の焚き木(図2:細枝)。

目安は、直径1㎝前後。そしてもう少し太めの、向う脛あたりに木を押し当てて両手でグイっと力をかければ折れる直径2~3㎝程度の焚き木(図3:中太枝)。

さらに、簡単には折れない直径5㎝程度の太めの焚き木(図4:太枝)。

以上の4種類です。ちなみに5㎝以上の太い焚き木は、かさばって扱いにくいうえにうまく着火してくれないことが多いため、バーベキューコンロ焚き火には不向きです。チャレンジしていただく分には止めませんが、あまりお勧めはできません。
落ち葉、枯れ草なども、よく乾燥していれば燃えやすい素材ですから、種火用に使える紙類がない場合には活用してもよいでしょう。ただし、周囲に散らばりやすく類焼のリスクもありますので、風の状況に十分注意して着火してください。また枯れて乾燥した竹は非常によく燃えますので、焚き火の材料としては優れていますが、節と節の間で確実に切れ目を入れておかないとハジけて火の粉を周囲に飛ばし、やけどのもとになりかねません。太い竹を節がある状態でまんま火に投げ込むと、ほぼ爆弾レベルでハジけますから、ナタなどを使って縦の方向に割っておく必要があります。ごく細い竹の枝でもそこそこハジけますので、焚き火初心者の方はできれば竹には手を出さない方が無難でしょう。

第3章 焚き火を育てる

焚き木を集めてきて火を点けさえすれば焚き火になる、誰もがそう考えがちですが、実際やってみるとそう簡単には焚き火を立てることができないと気づくでしょう。良い焚き火をしたいなら、焚き火を育てる努力を惜しんではなりません。焚き火を育てる、とはどういうことか。ここでは焚き火の育て方についてみてまいりましょう。

種火→予備焚き→本焚き→炭火→灰

ここに示したプロセスが、たとえるならば「焚き火の一生」ということになりますね。ごらんのとおり、ただ燃やすだけが焚き火ではありません。最終的に、焚き木が灰になるまで焚ききってこその焚き火、というわけです。これは、環境保全の面からも大切ですので心しておいてください。

先日、屋外で焚き火をした後の残り炭の処理をめぐって苦情が相次いでいる、との報道を目にしました。炭はもともと木だったのだから自然のもの、土に埋めておけばそのうち土に還っていく、そんなふうに考える方が多いようです。じつは炭は、かなり純度の高い炭素の結晶物であるため、簡単には分解されません。つまり何年たっても、炭は炭のままなのです。もちろん炭自体に化学的な意味での毒性があるわけではありませんから、土に埋められることでその土地に被害が及ぶということはありませんが、炭の黒さは(たとえばそれが白い砂浜であったりしたら)大いに景観を損ねるでしょうし、触れば黒い汚れが付く。焚き火道において、炭が灰になるまで焚ききることを推奨する理由はここにあります。なかなかすべてを灰になるところまで焚ききることは困難ですが、焚き火道にいそしむ同士のたしなみ、心がけとして焚き火の着地点のあり方を胸に刻んでおきましょう。
さて、焚き火の収め方ばかり語っている場合ではありませんね。ここからは本題の「焚き火の育て方」にお話を進めてまいります。
焚き火の初動操作としては、火種(マッチ、ライターなど)から紙類(新聞紙など)への着火をもって種火を起こすことが一般的でしょう。「木と木の摩擦で火種を起こすところから焚き火を始めたい」というこだわり派の方におかれては、とくに止めませんのでご自由にがんばっていただいても結構ですが、焚き火を立てる前に力尽きることもございましょうから、そこはお手軽な火器類をご利用いただいたほうがベターかと思います。

というわけで、まずは紙(ここでは新聞紙を想定します)に火をつけるところから始めてみましょう。ところで皆さんは、紙は燃えやすいもの、そう思っていませんか? もちろんそれは間違いではありません、ただし条件がそろったならば、と申し上げておきます。紙にしろ木にしろ、ものが燃えるときに最も大切な条件は、そこに十分な酸素があるかどうか、です。たとえばきれいに折りたたまれた状態の新聞紙に火をつけようとしても、部分的には燃えるかもしれませんが、まず間違いなく燃え残りが出ます。それがバーベキューコンロの中であれば、なおさらその傾向は顕著に表れるはず。なぜなら紙と紙が密着状態にある場所には紙を燃やすに足るだけの十分な酸素がないからです。ではどうしたらよいでしょうか? 簡単に申し上げるなら、新聞紙を1枚ずついったん広げて、それをグシャグシャッと緩い球状にして着火する、ただそれだけのことです。新聞紙のつぶし方にもいろいろとノウハウがあるようですが、ここでは難しいことはなしでいきましょう。広げてグシャッ、それで十分です。
条件を整えて燃えやすくなった新聞紙に着火すると、あっという間に燃え尽きます。燃え始めたら燃え終わるのも早い、これもまた紙の特性です。そういうわけで、焚き火を立てるための種火として新聞紙を用いた場合、それが燃え尽きる前に、集めておいた極細枝へと確実に炎を移す必要があります。いきなり太枝はダメです。新聞紙の火力で太枝を燃やそうとしても、まず着火してくれません。ものには順序というものがある、ということですね。新聞紙の上に極細枝を多めに広げて置き、新聞紙からの炎を極細枝に移し取る準備を整えて着火に進みましょう。

極細枝は燃えやすく、新聞紙の炎で簡単に着火するでしょう。ただし、細いだけに燃え尽きるのも早く、うかうかしていると火が消えてしまいます。極細枝が勢いよく燃えている間に上手に細枝へと炎を移してやりましょう。新聞紙からスタートして極細枝、細枝へとスムーズに炎をリレーさせる、ここに焚き火の育て方の核心があります。ある程度の量の細枝まで炎を移すことができたなら、焚き火を育てる作業の80%くらいが完了したと思って問題ありません。ここまでが予備焚きです。
この先は中太から太枝へと太い焚き木を足しながら本焚きに向かいます。ここでも慌てて焚き木を大量に放り込んではいけません。酸欠で火の勢いが弱まり、時には消えそうになることもありますから、量を調整しながら火の勢いを保つようにしてください。おおむね中太枝まで炎が回れば、まず焚き火としては安全圏に入ったと考えて結構でしょう。あとは太枝にしっかり火を移してコンロ中央に配し、ここを中心として細枝、中太枝を配分しながら火勢を保ってください。どうでしょうか、良い焚き火に育ちましたか? なお、いったん良い焚き火に育ったように見えても、ふいに火の勢いが弱まることはよくありますから油断は禁物です。子育てに似て、焚き火を育てるにも紆余曲折は付きもの。くれぐれも申し上げておきますが、上手に育てたければ慌てて詰め込んではいけませんよ。余裕をもって順序良く少しずつ…、この目配りこそ、何よりも焚き火を上手に育てるコツと言えましょう。

第4章 誰がために薪を焚く

有機物を急激に酸化させ、その反応により熱と光と二酸化炭素を発生させる。まことにミもフタもない言い方ながら、化学的に見た場合、焚き火とはそのような反応系の一つにほかなりません。いや、単なる酸化反応と言われるだけならまだしも、SDGsのご時世にあっては脱炭素社会への反逆、地球温暖化の元凶と揶揄されがちな焚き火。ですが、それは焚き火の一面を見ているに過ぎないのだと思います。焚き火には、人の心に響く何かがある、だからこそ人々は焚き火を起こしたい衝動に駆られるのでしょう。いや、もう一歩進んで、焚き火を「焚き火道」として昇華させることこそが、形而上学的世界への扉を開ける手立てなのかもしれません。
すみません。わけのわからないような小難しい理屈をこねてしまいましたね。そうです。そんな理屈はどうでもよいのです。焚き火を囲み、炎を愛で、放たれる温かさを享受する。お酒を酌み交わしたり、コーヒーを味わったりしながら、普段言わないようなちょっといいことを言ってみたり、こっぱずかしい告白をしてしまったり。でも、それでよいではありませんか。ささやかな非日常に心を委ねることこそが「焚き火道」への入り口。楽しみながら「焚き火道」の奥深さを少しずつ体得していただければ、家元としてご指南した甲斐があろうというものです。
あなたの好きな人のために、そしてあなた自身のために、ときには焚き火を立ててみられてはいかがでしょうか。

焚き火道(観雲一草流)・家元
藤田 勝 / プロフィール
国際細胞検査士、防災士、衛生工学衛生管理者、卵かけご飯道・師範、ウスターソース党・党首、和洋折衷管弦楽ユニット「フジヤマ」(Vo,G.)、バーベキュー・コーディネーター(応用バーベキュー工学)、岡山手酌連合会・元会長

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